理化学研究所

113番元素はどのようにして発見されたのか?

原子番号30+原子番号83=113番元素

113番元素の合成

113番元素の合成の原理は数字の上では単純です。亜鉛(Zn原子番号30、陽子数30個)の原子核とビスマス(Bi 原子番号83、陽子数83個)の原子核を衝突させ、融合させれば30 + 83 = 113番元素が出来上がります。難しい所は原子核の大きさが1兆分の1cmと余りにも小さくほとんど衝突しないこと、たとえ衝突したとしても融合する確率が100兆分の1と大変小さいことです。1兆分の1cmですから、狙うことは不可能、そこで大量の亜鉛原子核をビームにしてビスマスに当て続けました。

実験開始は2003年9月、夜に日をついで亜鉛ビームを当て続け、翌年の2004年7月23日に、やっと1つの113番元素が合成されたことを確認しました。

確認するには、この新元素の陽子が113個であることを証明すれば良いのですが、とても数えられません。そこで新元素がα崩壊することを利用します。α崩壊は原子核からα粒子(= ヘリウム原子核 原子番号2)が放出される現象です。新元素からは3秒間のうちに次々と4個のα粒子が放出され、約40秒後には核分裂を起こしました。この4個目のα粒子のエネルギーが既に当時知られていたボーリウム266(Bh 原子番号107、中性子数159) が出すα粒子のエネルギーとほとんど同じだったのです。これは新元素が陽子数2のα粒子を3つ放出してボーリウムになったということ、つまり新元素は107 + 2 + 2 + 2 = 113番元素に違いないということを意味します。でも、たった一例では信頼性は高くありません。

さらに実験は続きます。翌年2005年4月2日に2つ目を確認。1つ目と同様の4回のα崩壊、そして核分裂を観測しました。でもまだ足りません。実は核分裂をせずに6回のα崩壊を観測できれば、これこそ決定的な証拠となるのです。3つ目を目指して実験は続きますが、2006年、2007年、2008年、2009年…となかなか新たな113番元素は合成できませんでした。自然とはそういうものなのです。

113番元素の合成の流れ

そして2012年8月12日、とうとう3つ目を観測。これは4個のα粒子を放出してドブニウムになった後も核分裂せず、さらに2個のα粒子を放出したのです。その上4, 5, 6個目のα粒子のエネルギーはそれぞれボーリウム266、ドブニウム262(Db 原子番号105、中性子数157), そしてローレンシウム258(Lr 原子番号103、中性子数155) が出す既知のα粒子のエネルギーと同じだったのです。もう疑う余地はありません。113番元素の合成に間違いなく成功したのです。